汎用型AIに海事分野の質問をするとどうなるのか

この記事は代表の藤井迪生が一般社団法人日本船長協会の月報 Captain 第 477 号 (2023年12月)に投稿したものを再編集の上、再掲しています。

ここからは私たち海技者が実際に利用する場面を見ていきます。

大規模言語モデルはあらゆる分野のデータセットを学習しています。ChatGPTのような推論のプロセスでは、あらかじめ学習したデータから統計的にもっともらしい文章を生成することは先に紹介しましたが、モデルがあらゆる分野のデータを学習している場合には、海運分野のデータはその他大勢の汎用データに紛れて濃度が薄まるように感じます。そこで、その事実を確かめるため、以下のような専門的な質問をプロンプトに入力した際の推論結果を確認してみます。

まず、OpenAI社のChatGPT[1] / GPT-4を利用し、以下の質問をプロンプトに入力し、GPTに推論させた結果が以下の通りです。

プロンプトあなたは船長です。今、右舷から横切り船が接近していて、衝突の可能性があります。どのように対処するべきか簡潔に答えてください。
GPTの出力船長として、次のような基本的な対処方法をとることが推奨されます。
1.     船の速度を減速する。
2.     衝突を避けるための方向を判断し、可能ならば左舷(左側)に避ける。
3.     警報を鳴らして乗組員と乗客に注意を促す。
4.     必要に応じて通信機器を使用して、接近している船との連絡をとる。 安全な航行のためには、常に周囲の状況を確認し、予測し、早めの対応が重要です。

一見、それらしい日本語で簡潔に答えていますが、右転ではなく、最初から左転すると回答しており、海技者から見れば大いに疑問符がつく内容です。

では、ここで先ほどのプロンプトに以下のように海上衝突予防法の海上衝突予防法 第十三条(追越し船)、第十四条(行会い船)、第十五条(追越し船)の条文を参照データとして追記して、推論させてみます。

プロンプトあなたは船長です。今、右舷から横切り船が接近していて、衝突の可能性があります。以下のルールを参照して、どのように対処するべきか簡潔に答えてください。

ルール:(誌面の都合上省略) [海上衝突予防法 第十三条(追越し船)、第十四条(行会い船)、第十五条(追越し船)の条文をそのまま入力する]
GPTの出力船長として、海上衝突予防法の中で最も関連するのは「横切り船」に関する第十五条です。この状況において、以下の対応を取るべきです:
第十五条第一項によれば、他の動力船を右舷側に見る動力船(あなたの船)は、その他の動力船の進路を避けなければなりません。これは、右側から接近してくる船の進路を横切ることなく、その船の進路を避けることを意味します。
同項によれば、やむを得ない場合を除き、他の動力船の船首方向を横切ってはならないとされています。 したがって、あなたの船は、右から接近してくる船の進路を横切らないように進路を変更し、その船の進路を避ける必要があります。
あなたの船が他の動力船を右舷側(右側)に見る場合、あなたの船はその他の動力船の進路を避ける必要があります。 あなたの船が進路を避ける際、やむを得ない場合を除き、他の動力船の船首方向を横切ってはならない。

簡単に言うと、もし接近してくる船をあなたの船の右側に見る場合、あなたの船が進路を避ける必要があり、できるだけ他の船の前方を横切らないように注意しなければなりません。

いかがでしょうか?出力結果が専門的な内容に変化しました。つまり、汎用型AIであってもプロンプトに適切な知識を与えることができれば、専門分野の対話型AIのような動作が可能になることが確認できました。言い換えれば、プロンプトにいかに手間なく正確に関連する専門知識を入力できるかが、海技者が業務に利用できるか否かの1つのポイントになりそうです。